明治時代の大ベストセラー。 著者の母国スコットランドを含む欧米を中心とした人物の自助、つまり他人や国(恐らく国という概念が本格的に浸透してきたのがこの頃)に頼らない生き方を紹介する本である。 最初の和訳版が発売されたのが1871年。明治維新や版籍奉還が行われて間もない頃である。 “Heaven helps those who help themselves” ( 天は自ら助くる者を助く)は非常に有名。士農工商という身分制度が廃止されて数年しか経っていない当時の人々はこの一文から何を感じたのであろうか。 竹内均訳の本書は10章から構成され、各章で有名人の関連発言や生き方を紹介している。近年の自己啓発書と比べると少し纏まりにかけると思われる点があるものの、我々を励ましてくれる文章が所々に散りばめられている。 本書で取り上げられている日本でも有名な人物の例を幾つか上げるとすれば、ミケランジェロ、ベーコン、ベンジャミン・フランクリン、シェイクスピア、ジェンナー、ニュートン、ベートーベン、ハイドン、ナポレオン、ルター、フランシスコ・ザビエルであろうか。 様々な助言がこれら人物の口を借りて語られているが、本書が最も伝えたい事は 「外部からの援助は人間を弱くする。自分で自分を助けようとする精神こそ、その人間をいつまでも励まし、元気づける。」ということではないか。 その上で例えば、時間の使い方や努力の継続等、当たり前のことと思われるが実践することが難しい物事について述べられている。 本書の登場人物で最も日本にゆかりのある人物はザビエルとその同志、イグナチウス・ロヨラであろう(ロヨラは日本には来ていないが)。 そのロヨラの一言: 「一度に一つの仕事しかしない人間のほうが、むしろ誰よりも多くの仕事をする。」 賛否両論あるだろうが彼のイエズス会における仕事振りに鑑みるとそうかもしれないと私は思う。 植民地支配や奴隷制度がまだまだ一般的だった19世紀に出版された本なので、全ての人を対象としたものではないだろう。それでも我々に多くの伝える内容を持つ本ではある。一方、私がこの本を読む時考えるのことは、明治維新後間もなく、また、国家等新たな概念が欧米から次々と伝えられたこの時期の日本人はこの本を読んで何を感じたのかということだ。