司馬遼太郎:街道をゆく 南蛮のみちI

街道をゆく〈22〉南蛮のみち 1 (朝日文庫)/朝日新聞社

司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズからの一冊。南蛮とはスペインとポルトガルのこと。南蛮のみちIでは主にスペインにおける旅行記を掲載。

スペインといっても、司馬遼太郎の本旅行の主目的は、フランシスコ・ザビエルと20世紀に日本に居たソーヴール・カンドウ司祭の故郷であるバスク国訪問である。国とはいうものの、バスク国というのは現在正式には存在しない。一般的にはスペイン及びフランスにまたがる地方として知られている。

しかし、その歴史は長く、その言語の起源は未だ分からない。また、多くの人には今でもETAの存在がバスク国を知る契機となったのではないだろうか。

日本にもっともゆかりのあるバスク人はフランシスコ・ザビエルであろう。日本を大天使ミハエルに捧げたこの聖人は、ポルトガル人が種子島に漂流して銃を伝えた6年後(1549年)に鹿児島に上陸した。彼の存在がなければイエズス会や上智大学は私たちが見るそれと大分違っていたかもしれない。

さて、本書でまず目を引くのは司馬遼太郎の物凄い文献参照の結果とやはり、彼の文章力である。筆者の歴史小説同様、ザビエルの留学時代にパリにいたかの様な印象を受ける。当時の生々しい話の数々(例えば梅毒の流行や学院間のいざこざ、またザビエルが留学を続けれた理由のひとつと思われる世俗的なこと)や、ロヨラの人物像と彼との出会い、イエズス会設立の経緯等が鮮やかに描かれている。また、本書で紹介されているザビエルが手紙に記した日本人の描写を読めばザビエルがどの様な思い出日本に滞在したか、想像することが楽しくなるのではないか。

また、本書は歴史小説ではなく旅行記であるため、司馬本人の人柄や好奇心がこちらに多分に伝わってくる。例えば、カンドウ神父の生家がザビエル一族の隣であったり、カンドウ神父の故郷を目の前にして、いきなり中に入るのは惜しいような町という発言である。この人は本当に歴史が好きで、また、様々なことに気が回るのだなということが良く理解出来る。

本書には司馬の知り合いや本旅行で知り合った人々のやり取りも興味深い。犬養道子さんのカンドウ神父生家訪問の話であったり、フランス人及びバスク人ツアーガイド、レストランにおけるバスク談義、また、スペインにおける日本人案内役の武部さんの「文明国」の話等だ。

私自身、スペインは何度か訪問し、バスク国の歴史に僅かながら触れる機会もあった。その経験から本書は街道をゆくシリーズの中でも特に思い入れのある一冊だ。

最後に個人的に気になった一節。司馬がフランスにおける日本人ガイドの植野さんに「くに(日本)は懐かしいか」と振った時。彼女は笑うのみで答えなかったという。海外に住む身としては彼女の心境を色々と考えてしまう。

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