村上春樹:もし僕らのことばがウィスキーであったなら

もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)/新潮社

村上春樹のアイルランド及びスコットランド旅行記。タイトル通りウィスキー巡りを主題とした旅行。
私自身はお酒をほとんど飲まない。下戸という訳ではないが、ハードに運動(空手と水泳中心、たまにランニング)を始めて以来、胃や体に負担となるものが如実に分かる様になり、アルコールが自分の体に与える影響を体感出来る様(それが如何に少量であろうとも)になってからは本当に飲まなくなった。多分体質的に向いていないのだろう。
という経過もあり、村上が述べる
読んだあとで…その土地のおいしいウィスキーを飲んでみたいな…という気持ちになっていただけたとしたら…すごく嬉しい。
という読後感は残念ながら私には訪れなかった。一方、本書で紹介されているシングルモルトを何本か買って家に置いておきたいなぁとは思った。ウィスキーに込めるスコットランドとアイルランドの人々の思いが村上の文章を通してこちらに伝わってくるから。
この本で感じたことはスコットランドとアイルランドでウィスキーに携わる人々の情熱とこだわりである。例えば昔ながらの手法を保つこだわりが感じられる蒸留所がある一方、コンピューターを使うことへの柔軟性を持つ蒸留所の存在。それぞれが自分達のウィスキーへの愛情や様式を明確に述べている。
また、村上が訪れた土地における人々のウィスキーへの情熱及び如何にウィスキーが密接に人々の生活と関係しているかがその文章から垣間見れる。子供が生まれた時や葬式の際にもウィスキーを飲む習慣、アイルランドのパブに恐らく何年(何十年も)タラモア・デューをグラス一杯飲むために通う白髪の老人がその例として挙げられるであろう。
旅は人の心の中にしか残らない貴重なものを与えてくれると村上は言う。その通りだと思う。我々には旅をする色々な理由がある。時には理由が無いと思える時もあるかもしれないが。旅をしている最中は気づかないことがあっても後ほどその貴重なものの存在に気付くこともある。その貴重なものが人生の宝物となることが多々あるのではないだろうか。
この本を読んで旅に出たくなった。