カテゴリー別アーカイブ: 書評

後藤卓也:大人もハマる算数

大人もハマる算数/すばる舎

中学受験で出題された算数の問題を紹介すると共に、その問題の解決方法を「小学生にどのように教えるのか」を解説した本。

筆者が言う様に学習参考書ではない。大人が楽しむ読み物、また、脳トレ本としての一冊等を目標としている。

本書は12章に分かれ、各章で異なる分野の問題を紹介している。虫食い算、ツルカメ算だったり、体積の求め方だったり扱われる問題は色々だ。

理系出身であれば、掲載されている問題自体は簡単だろう。ただ、筆者の言う小学生への教え方というのは非常に興味深かった。

「小学生はこういう風に考えるのかぁ」とか、「こういう風に教えれば分かり易いのかな」とか考えながら読んだ。

最近、子供にルービックキューブの攻略法を教えているのだが、本書の考えが直接ではないが参考になる点があった。教え方という意味で。

各章の問題も興味深いし、私にとっては何より子供の視点を算数という分野で再確認出来る機会となった一冊。

今月は忙しいので書評は3日に1回のペースとなると思います。

猫ひろし:猫ひろしのマラソン最速メソッド

猫ひろしのマラソン最速メソッド 市民ランナーのサブスリー達成術 (ソフトバンク新書)/ソフトバンククリエイティブ

ロンドン五輪出場を目指しカンボジア国籍したを取得したことで大きな話題となった猫ひろしの著作。同件に関しては色々と批判する人も多いと思うが、今回は本のみに関する感想を書こうと思う。

アマチュア・ランナー、特に初心者に向けた本としては非常に優れているというのが第一印象だ。文中の言葉遣いはカジュアルだが、内容自体は非常に真面目且つ充実している。また、芸能生活が忙しい筆者が如何に練習時間を確保しているかは、多くの社会人にとって参考となる点だ。

小出監督がその著作で練習は裏切らないと断言していた。猫ひろしも本書でとにかく走る、距離を踏むと書いている。食事をする様に走る週間を作れとも。その通りだし、マラソンに近道は無いということだろう。

他方、猫ひろしには一流のコーチもついており、そのコーチが筆者の忙しく、また不定期でもあるスケジュールの中メニューを作成していく様子も垣間見える。例えば移動ランや朝帰りランだ。そういった工夫には

「速くなるためには、なにかを犠牲にしなければいけない」という、猫ひろしのマラソンに対する真摯な覚悟が伺える。

本書では速く走るための条件が4つ挙げられているが、その中でスピード練習に関しては詳細な説明がされている。同項目でさりげなく述べている一言が忙しい人には貴重なアドバイスだろう。

大事なのは、時間や場所を選ばないこと。走れるときに走る、走りたいときに走る…走る時間帯を決めてしまうと、その時間にもし用事が出来たら…その日のトレーニング計画が台なしになってしまいます。

と筆者は述べている。

トレーニング方法以外にも食事、肉体改造、体のケアやレースに向けた準備についてもある程度触れており、参考とする点は多い。また、禁欲生活について明確に述べているのは猫ひろしがお笑い芸人だからだろうか。書きにくいが重要な点であるこのことに触れていることは評価に値すると思う。

最後にこれだけマラソンで結果を残していながらもマラソンは芸人としてのパフォーマンスの一部と明言し、レース前日でも仕事を断らないという筆者の姿勢には学ぶべきことが多いと思った。

唯一懸念を持ったのは、猫ひろしは小出監督が薦める後半型ではなく平均ペース型で走っていることだが、それでもサブ3を達成しているのだからそういうこともあるのだろうと受け止めるのが良いだろう。全てのランナーやランニングに興味のある方、特に忙しい社会人ランナーにお薦めしたい一冊だ。

小出義雄:30キロ過ぎで一番早く走るマラソン

昨日の記事で小出監督の本について語った。今回は同監督の中級者以上を主な対象とした実践編の紹介。

30キロ過ぎで一番速く走るマラソン サブ4・サブ3を達成する練習法 (角川SSC新書)/角川マガジンズ

タイトルからも想像出来るが、本書で小出監督は早く走るためのコツとして後半型を主張している。後半型自体は新しい概念ではないのかもしれない。実際、後半型に関する書籍は何冊か出ていると記憶している。

一方、本書程後半型の利点とその理由及び後半型を採用することにより生じるランナーの不安について明確に説明されている本は珍しいのではないか。

後半型がマラソンに向いている理由について筆者は平均ペース型と先行型を比較対象として提示し、その結果後半型の利点が非常に明確に読者に伝わってくると思う。

後半型の利点を明確にした後、筆者はランナーのレベル(タイム)毎の練習メニューを紹介している。強調されている点は前作と被っている点が多いが(同じ競技なのでそれはまぁそうだろう)、一方で2つのスピード等、後半型に特化した概念がしっかりと説明されている。

最後の故障に関する章は、上級者にとってはもしかしたら一番重要かもしれない。というのもサブ3を目指すランナーにとっての最大の心配事を言っても過言ではないのが故障だからだ。筆者は、故障については誤魔化してもいいことは無いと断言し、怪我した時は休むことが一番と言う。他の人が言っても聞き流すランナーも小出監督ならとなる人はいるだろう。レースの欠場に関する決断も同じことが言える。一流の指導者がこうしたことを一般人に向けられた書籍で述べていることは非常に重要だと私は思う。

マラソンが好きな人、その中でも伸び悩んでいる人にとって本書はとても参考となる一冊ではないだろうか。