片桐はいり:わたしのマトカ

わたしのマトカ (幻冬舎文庫)/幻冬舎
女優片桐はいりの初エッセイ本。

彼女が映画「かもめ食堂」のロケでフィンランドに行った時の出来事を中心に書いたもの。「マトカ」とはフィンランド語で旅という意味なので題名はわたしの旅ということとなる。

冒頭で述べている様に旅好きな彼女。ただ、この旅行がこれまでと異なるのは出張だったため彼女自身が選んだ旅先ではなく、また、準備が出来なかったため予備知識を持たずに旅先であるヘルシンキに向かったということ。

片桐はいりはそんな条件の下で行ったフィンランドにおける一か月に亘った滞在の思い出を綴っている。予備知識の無さから派生するハプニングの数々や彼女自身の好奇心や恐らくだが物怖じしない性格が要因と思われる様々な出来事。トラムへの乗車、肉にかけるベリーソース、マッサージ、クラブ体験やファームステイ等だ。

また変なこだわりや先入観を持たない方なのだと感じた。例えば食通だと自覚する人がガイドブックに載る店には行かない等ということはたまに聞く話だが彼女は必ず行くという。食事関連でも「生で魚を食べる仲間」であるフィンランド人の食生活について少し伺える。ジャガイモ、トナカイ肉や飛行機の中で食したお菓子等だ。

本書を読んでいて物凄く上手な表現をされる方だなと思った。彼女の現地フィンランド人との交流及び彼女の感受性があってこそであるが、フィンランド人のぶっきらぼうさとその裏に隠された優しさ等、そこに行ってみたいと読者に思わせる説得力が彼女の文書から溢れ出ている。特に肉にベリーソースをかけることに拘るフィンランド人の日本版としてすきやきに生卵を挙げたのは秀逸だと思った。

本当に色々な所に気が回り、また、観察される方だなとも感じた。ヘルシンキのカラスの大きさやフィンランド俳優との交流等々。

片桐はいりは「人にはおのおのの、町とのつきあい方がある」と言う。素晴らしい言葉だ。本書で著者はこの言葉を実践している様に感じた。だからこそ豊かな描写で魅力的な本が出来上がったのだと思う。


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